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旭川地方裁判所 昭和48年(わ)336号 判決

主文

被告人を懲役四月に処する。

この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予しその期間中被告人を保護観察に付する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となる事実)

被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで、かつ、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、昭和四七年一二月一五日午後九時五五分ころ、北海道上川郡比布町北一線一三号付近道路において、普通貨物自動車を運転したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示所為中、無免許運転の点は道路交通法一一八条一項一号六四条に、酒酔運転の点は同法一一七条の二第一号六五条一項に該当するところ、検察官の意見に鑑み、右両罪の競合関係について検討する。まず、刑法五四条一項前段が一個の行為が数個の罪名に触れる場合についてこれを科刑上の一罪とし刑の吸収主義を採用しているゆえんのものは、一個の行為によって同一または異種類の構成要件が数回充足される場合は、数個の行為による場合と比較すると、行為の違法性もしくは行為者の責任またはその双方の評価において相当の重複が生ずることにあると解される。そうすると、右条項にいう一個の行為であるか否かは、各構成要件を充足する行為が、前構成要件的な事物自然の行為として観察した場合に行為の全部または重要な部分が重なり合うことを前提としたうえで、構成要件的評価の面から観察した場合においても(各罰則における違法性附与の根拠、態様、それらの構成要件を充足する行為の性質、態様、犯意の内容、形成過程といった点の対比が中心となる。)行為の重要な部分が重なり合っているか否かによって決するのが最も適当であると考えられる。本件についてこれをみると、まず、同一人による同一機会の無免許運転と酒酔運転を前構成要件的な事実としてみると、外形的には単一の運転行為が二つの構成要件を充足する事実のすべてであり、事物自然の行為としての一個性は極めて顕著である。次に構成要件的評価の面から考察すると、まず酒酔運転の禁止が無謀な運転の禁遏を目的としていることはいうまでもなく、無免許運転の禁止にもかかる目的が含まれており(運転未熟の場合はもとより本件のごとく行政処分により免許を取り消された場合も同様である。)また、無免許も酒酔いもともに犯行時における運転者の属性であるから、両罰則における違法性附与の根拠および態様には共通な点がみられる。したがって、無免許と酒酔いという本件の場合の最も重要な相異点には、違法性の評価の面で少なからぬ重なり合いがみられるというべきである。さらに右のような共通点に加うるに、無免許運転と酒酔運転の場合には、無免許でかつ酒酔いの状態にあることを認識している者が運転を開始すれば当然に双方の構成要件が充足されるという関係がみられる。したがって、かかる者の無免許運転と酒酔運転の犯意には違法な運転にあえて出たという部分において完全な重なり合いがみられ、両罪の責任評価の面でも相当重なり合う部分があるというべきである。叙上の諸点を総合すると、前記二つの構成要件を同じ機会に充足する行為は事物自然の行為として観察した場合には完全に、構成要件的評価の面から観察してもその重要部分において重なり合っているということができるから、右の二つの罪が競合するときは一個の行為によって犯されたものと解すべきであり、むしろ、いわゆる観念的競合の典型的な場合であるとさえいうことができると解される。(なお、検察官は、両罪は違法性附与の態様を異にし法的性格も異なるということを理由に両者は併合罪の関係に立つ旨主張するが、違法性附与の態様や法的性格がどのように異なるかが問題なのであって、異種類の観念的競合の場合に数個の罪の法的性格が異なることは当然のことであり、このこと自体は何ら観念的競合関係の成立を妨げる理由となるものではない。また、数個の罪をそれぞれ独立の意思行為に分割して行なうことが可能であったか否かを基準とすべき旨の見解があり、当裁判所の立場より明確な基準であって本件については結論を異にしないけれども、単一の意思行為であることを要求する点で観念的競合の成立する場合がやや狭きに失するように考えられる。)そこで、刑法五四条一項前段一〇条により一罪として重い酒酔運転の罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択してその刑期の範囲内で被告人を懲役四月に処し、同法二五条一項二五条ノ二第一項前段を適用してこの裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予したうえ被告人をその期間中保護観察に付することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤文哉)

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